日蝕

　10

むなしさがひきつって
深夜放送が真昼を犯す
産まれた子は
間引きを恐れて子宮へ逃げた
ぬかるむ幼児の笑いが
壊しまた壊してゆくあおい葬列

　９

「ご臨終です」
ごあいさつがピンと立つ北半球の朝に
時雨あやつりまた錯乱する
畏れしぐれるあやとり
あそべやあそべ
かっと身をそらした年輪が尖った北を指す
発作がざぶざぶと迫り
蒸留水が脳髄に引きこもった
どうでもいい
どうでもいいのか
なめらかな痙攣
船にとびのる

　８

空から垂れてくる童謡の死角から
飛び立つ蝶の胎児
遥かなる三白眼
なすすべもなく
なすべきこともなし
われしらずジグザグの自信をまさぐり
手のひらをすべってゆく潔癖な血清
海へ平べったく潜行せよ
奇跡的な自信

　７

長距離列車の遠心力
南へ帰るありふれた奇跡
子守歌でがらんどうになる三回忌
ファインダーをのぞき込んで季節を午後にする
きっと生まれるか
臨月が今日も続いた
はたちを身ごもる二十一歳の母
子宮に素直さをつぎこむ

　６

脱色された風媒花のなまじろさ
すくすくと嘘をつく
種の中心がとんがって
知らずにいた
知らぬことはなく　たとえば
たとえば熟れた！

醜い憎さと憎い醜さのののしり合いその白痴美
死にかけの男と
死にたい女のばかし合いその飢え
ぼやけちまった夏の絞りかす
からっぽの純潔を果実酒に混ぜ込んだ
まっくらな善意の回し読み
蜃気楼が逆立ちして
太陽を食う火食い鶏
複眼にあしたははぐくむか

　５

思い出を擦りむいた桜桃忌

　４

純粋に逆毛立ついびきはいつまで訛るのか
たおやかに鳥肌たてて抜けがける四季

　３

垂直に燃える金環食
へだたって
楔形に膨らむ日付変更線
じっと

　２

身構える
真一文字に闇になる
屈折する羅針盤に照らされてゆけ
行きずりの偏西風
とっさに人生を洗う

　１

南中する人生論に射精して
うたえよ　うたえぬ　うたかたと
変形活用！
しなだれる孤立に生きて
しなやかな発作
再び船に飛び込む
あがなえあがないつつ涙はあったのか
立ちくらむ標準時間
叫べども抜き差しならぬぬけぬけとせわしげに
知恵の輪が日輪から離れずに痛すぎる
いつだって

　０

見えないふりをする

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