すこし、遅れ気味に走るひと

短針だけが動きを止める
そのひとときに
おまえはたぶん頬を染める
そこかしこ
日陰をつくる
しおからい吐息

　　＊

私のひだまりをおまえがよぎる
無遠慮に
堂々と
なぶるように
吐息が私の耳に降り積もる

　　＊

どこまでも言葉遊び唄
ここまでは言葉遊び唄
追いかけるおまえの輝き
負われていくおまえのざわめき
こびりつく昔々の季節

　　＊

また雨　また
雨　あきもせず
六月に
ぼん
や
りと

　　＊

くりかえし
くりかえす
くりかえし
ふりかえる
その
ぬるい視線に
まとわりつく
ピアノ協奏曲変ロ長調

　　＊

窓を開ければ
窓
その向こうにまた
窓
光が光に刺さり
はみだしてあかい水になる

　　＊

ゆっくりと空がのけぞる
気に病んで夢は武蔵野を駆け抜けた！

　　＊

正午から落ちてくるまどろみ
うとうとと
ゆびさきだけが暖まり
眠りこける思い
ぼくの肌にどしゃぶる残酷な誠意に
ぼく自身が途方に暮れる
もう無頓着すぎる
夏の中央線豊田行き
尖った風を切り裂く

　　＊

おまえの涙が驚きをノックして回る
掌に
緑の生命線とぎれてとぎれ
愛情線を含み笑いが流れる
這いずる乳房の心地よさ

　　＊

きっぱりと哀惜を噛みしめる糸切歯に
果てしなく国分寺が香る
すべってゆく直通電車
明け方を中央線青梅行き

　　＊

おまえが空を飛ぶ
ぼくが沈んでゆく
おまえのこころに銀色の蝿が止まり
ぼくの足首に夢がからまる
だからどうしたのと
おまえが笑った

　　＊

声が聞こえる
無駄話がわしづかみにされて
言葉がゆるゆると流れていった

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