離島ブームのなかで
八重山諸島の中心・石垣島は人口五万人の「石垣市」だが、沖縄本島から四百キロも離れてた離島だ。石垣島から高速船で一時間圏内で行ける波照間島、西表(いりおもて)島、竹富島、小浜島などは、さらに離島。それぞれの島には中学校までしかなく、卒業すると石垣島か本島の高校に進学する。 十年前に石垣を訪れたとき、各島に行く船は、粗末な離島桟橋から出ていた。そばには船会社のチケット売場や土産物屋が雑然と並んでいた。今では、これらが「離島ターミナル」に集められ、桟橋も赤瓦の洒落たものに変わっている。 今、石垣島は本土からの移住者が増え、地価も賃貸料も高騰している。まさにバブルだ。那覇は〝都会〟だが、石垣島なら周辺の島にも気軽に行けるし、そこそこ便利だからだろう。 数年後には石垣新空港も完成し、ジャンボ機が離発着できる。観光客も増えるし、島の農産物も大量に本土に送れる。経済も潤う。 私は移住を否定しないし、島が便利になるのも賛成だ。だが何か割り切れないものを感じてしまう。どこか浮かれたものを見ているようなのだ。 |
八重山の中でこれまで行ったことのなかった島が鳩間(はとま)島である。現在人口七十名。周囲四キロメートル足らずの小島で、まったく観光地化されていない。今回の旅の大きな目的は、この島に行くことだった。 数年前までは週三便の定期便しかなく石垣からの日帰りはできなかった。だが、一昨年この島を舞台にした「瑠璃の島」というテレビドラマがヒットし、毎日数便の定期船が運航するようになった。石垣島からは高速船で四十分ほど。 それでも東シナ海の荒波で、船はすぐに欠航する。 一九八〇年代初め、鳩間島小学校の児童が一人だけになった。そのとき島は、親類や全国各地からの里子引き取りなどで小学校を存続させた。今では全国各地から居場所を失った子供たちがこの島にやってきて、自分らしさを回復させて巣立っていくという。 珊瑚礁の海は見事な瑠璃色で、ビーチはほとんど手つかずのままだ。 何よりこの島には、余計な音がない。風と波の音と、鳥の鳴き声だけだ。この地域の代表的な蝶であるオオゴマダラ蝶が、ふわりふわりとまとわりついてくる。 願わくばここには妙なリゾート施設などつくらず、できるだけ自然と共存する方法を模索してほしい。観光化だけが島活性化の道ではないはずだ。 浜から向かいの西表島を見ながら、私は長い間、そんなことを考えていた。 （片山一行・出版プロデューサー、エディター） （2008年４月18日掲載） ■四季録トップへ |